10月20日(土)に品川シーサイド楽天タワーにて開催された Rakuten Technology Conference 2012 における弊社アジャイル・エバンジェリスト Nicholas Muldoon のセッション「Agile and Innovation: Hand-in-Hand at Atlassian」(アジャイルとイノベーション)。前回は「アジャイル編」をお送りしましたが、今回は後編の「イノベーション編」です。どうぞご覧ください!
スライド
それを頭にいれ、ShipIt Daysなどイノベーションの話に移りたいと思います。
ご覧のように10歳の会社です。今年3月に10歳の誕生日を迎えました。
イノベーションプログラムに何が必要なのかを見つけるまで少し時間がかかりました。
これは、創業者が忙しくなって製品マネジメントチームを作ったのと同じ時に起こりました。
ShipIt Daysと呼ばれるものを始めようと決めました。
ShipIt Daysを説明する前に、アトラシアンにおけるイノベーションプログラムが過去6年間どう進化したのか説明します。
2008年、Googleの20%タイムについてたくさん調べました。
残念ながら当時、多くの情報は公開されていませんでした。成功しているのか、どう測定するのか、毎年何人が参加しているのか、など。
イノベーションを誘発するように20%タイムのコンセプトを取り入れました。
デベロッパーが (1) 会社に、(2) 顧客に、コミットするようにしました。
デベロッパーに内在する動機をどう顧客とつなげるのか考えました。
ダニエル・ピンクが話した「自律、熟達、目的」です。
アトラシアンは100万ドルを用意するという大きな賭けをしました。
それは会社の全員が週1日、20%タイムに費やすことに相当します。
それを測定しようと決めました。成功したという情報が十分になかったからです。
その時知らなかったことは、スリーエム社が1940年台に15%タイムを行い60年以上も成功していることです。
スリーエム社のもっとも成功した例はポスト・イットです。
皆さんが使っているポスト・イットはスリーエム社のイノベーション、15%タイムからできたものです。
大きな賭けなので、どう行うか、どう効果を出すかを考えました。
20%タイムにはたくさんの成功と楽しみがありました。
製品やまったく関係ないものに取り組み、本当に価値のあるものだと結論付けました。
2010年に、もし20%タイムに価値があるのなら100%タイムはさらに価値があるだろう、と考えました。
もっとも成功したエンジニアに100%タイムを与えようと考えました。
3人のエンジニアを3ヶ月間、別の建物で取り組ませました。
思った通り彼らは素晴らしいものを作りました。ビジネスにおけるイノベーティブなコスト削減です。
ただ「イノベーションチーム」から分かったことは、他の社員がイノベーションを自分の仕事だと考えなくなったということです。
20%も時間を使わないようになり、顧客の問題の解決が減り、製品に取り入れられるイノベーティブなアイデアが減りました。
イノベーションチームは個別には成功しましたが、会社全体の行動に与えるインパクトが悪かったので、全体としては失敗でした。
なので、イノベーションチームは他と混ぜました。
それはイノベーションにおいてプラクティスを進化させ導入したほんの一例です。
20%タイムのない3年間で、たくさん学びました。
100人、200人、300人とエンジニアが増え、製品が7から10製品と増えるに従い、20%タイムを使うことが難しくなってきました。
Bobは月曜日に20%タイムを取り、他のメンバーは通常のスプリントで働いています。「Bob、これやってくれる?」と邪魔がはいります。
コンテキストスイッチが発生し、20%も使えず、5%タイムと呼ばれ始めました。
主な理由は5,6人のチームが同時にやらなかったからです。
2011年、「20%ウィーク」というアプローチを始めました。
チームは1〜4週目に通常のバックログに取り組み、5週目に20%ウィークをミニスプリントとして行います。
月曜朝に何に取り組むのか決めて、イノベーションプロジェクトのバックログを作ります。
残りの平日に取り組み、金曜日の午後にデモを行います。
通常のスプリントのようですが、イノベーションに限定し、製品マネジメントではなくエンジニアが自主的に進めます。
これは成功でした。20%タイムよりもっと多くのものができました。邪魔や集中を阻害するものがないからです。
この6年間をとおして、ShipIt Daysを継続しています。
第1回ShipIt Dayは2006年5月に行い、今年の8月に第20回ShipIt Dayを行いました。
今では世界中のオフィスで行なっています。
ShipIt Dayとはハック、ピッチ、パーティーのことです。
会社にいる全員に参加してもらい何かイノベーティブなものを作って欲しいのです。
考える練習ではなくて、顧客の問題を解決するものです。顧客は社内かもしれないし、外部の顧客かもしれません。
何をするか?24時間で何かを作ります。
コードを書き、テストし、顧客に検証してもらい、顧客フィードバックを得て、最終的にはデリバリーします。
常にデリバリーできるとは限りません。いつものShipIt Dayをお見せします。
ShipIt Dayが皆さんの組織でも行えるかご覧ください。
始まる2,3週間前に社内ブログでアナウンスがあります。
シドニー、アムステルダム、クアラルンプール、サンフランシスコなど各地で準備が行われます。
世界中で同時に行う必要はありません。
しかし誰が何に取り組んでいるのかは完全に分かるようにします。
最初はブラウンバッグセッションです。茶色い袋に入れたランチを会議室に持ち込み行います。
ホワイトボードにアイデアを一緒に書いて考え、ふくらませます。
前半に話したD.O.Sが、新しい顧客の問題を提示するとします。「誰か一緒にやりませんか?」
数週間のうちに、社内の顧客で検証を行い、それを良いと思った同僚がチームを組みます。
サポートエンジニア、マーケティング、デザイナー、人事、なども含むこともあります。
ShipItの朝、通常は木曜に開始します。夜中をまたぐ24時間マラソンで、終わったら週末帰宅してリラックスできるようにです。
木曜朝9時に「出荷指示書」を提出します。
ここではHipChatとGreenHopperのインテグレーションでした。
キーは、何を達成するのか、チームは何人なのか、何をデリバリーするのか、何を売るものなのか。
「出荷指示書」を提出する1つの理由は、いくつのプロジェクトが実際にデリバリーされたのかを数えるためです。
アトラシアンはとてもデータ駆動の会社なので、測定できないと失敗したように感じます。
事実の記録を持つことが私たちのやり方です。
こうして木曜朝9時に「出荷指示書」を提出します。
木曜の昼間に全員がShipIt Daysプロジェクトに取り組み始めます。
遅めの時間、10:30や11時にオフィスに現れます。珍しいことではありません。
多くのデベロッパーは、いずれにしてもそれぐらいの時間にいつも出社するからです。ナードの習慣です。
GreenHopperチームのBrad Bakerがハッキングをしています。
会議室のブラインドを下ろして閉じこもり、作業をすることもあります。
定期的な休憩があります。
いつでも食べ物を用意し、24時間、建物から出ずに済むようにします。
これは朝食です(笑)。ピザとビールで。
未明の時間のセッションなのにまだオフィスに人がいます。
何人かは机の下に寝ています。
私はオフィスで寝たことはありません。
午前1時に帰宅して寝て、午前6時にオフィスに戻ったりします。
私はShipIt Daysを主催して、写真をとって記録したりするからです。
2011年の第18回ShipIt Dayだと思いますが、オフィスに行ったら誰もいませんでした。
カメラのセットをしていたら、何時間か寝ていたPenny Wyattが机の下から出てきて、またハッキングを始めました。
本当に24時間続くのです。
金曜日午後には全員がプレゼンを行います。
これはシドニーオフィスのピッチセッションです。地下に集まり見ます。
たくさんいるので、1回戦で敗退した人を除いて2回戦、そして3回戦へと進み、ピッチを行います。
全員が最終ピッチを見ます。
そこで、JIRAに作成した「出荷指示書」が見られる、JIRAのアドオンを使います。
ピッチを見て、モバイルフォンから投票できます。
ピッチをしている時に、好きなピッチに投票します。
3票もっています。他の人が良ければ、後で戻って投票を変更します。
ShipItの最後へ行く前に、一例をお見せします。
Joel Ungerは、GitとMercurialのリポジトリホスティングサービスBitbucket.orgチームのデザイナーです。
彼は404ページを改良したいと考えました。
左側の絵は「出荷指示書」に提出されたものです。
右側はShipIt最後にデモされた画像です。
ポイントは、ShipIt Daysはエンジニアだけのものではないということです。
QA、デザイナー、サポート、製品マネージャー、ファイナンス、創業者なども参加します。全員が参加します。
なぜか?この大きなトロフィーを獲得したいからです。
Chris Kiehlはたしか3回、勝利しています。
小さな盾が見えるでしょう。
勝利すると名前が刻まれ、次のShipIt Dayまで3ヶ月、机に置けます。
もしShipIt Dayに勝利すると、多くの尊敬が得られます。
社員全員の投票で決まったからです。
全員が参加するようにするために、たくさんの賞を用意しています。
1人だけではありません。10人の勝者が各オフィスにいます。
小さなことですが、クールなことをしたと認められるのが重要です。
映画のチケット、食事券、などを獲得できます。
パフォーマンス エンジニアリング チームは、毎回スカイダイビング、バンジージャンプ、などの体験をプレゼントします。
もしそれを受賞したい場合は、製品パフォーマンスの改善に取り組みます。
製品マネージャーは、顧客からもっとも投票の多い機能を実装した人に賞を与えます。
最初に公開バックログの話をしましたが、そこで顧客は欲しい機能に投票ができます。
製品マネジメントチームは、もっとも多くの投票に応えた人に映画のチケットや食事券2人分などの商品をプレゼントします。
ShipIt Daysは素晴らしいです。終わればパーティーでビールを飲んでリラックスし、週末となります。
ShipIt Daysは24時間の話です。
20%タイムはどうでしょうか?週一日です。
簡単に例をお見せします。
Andrew PrenticeはQAマネージャーです。2010年、チームに問題がありました。
QAエンジニアが私たちの製品について、テストセッション中にバグ報告をするのに時間がかかっていました。
Andrewはこの問題を解決したいと考えました。このチームの問題を解決するために20%タイムを使いました。
顧客の検証はチーム内で得られます。
このツールを開発してから8ヶ月、チームでうまく使われました。
製品マネージャーがこれを見て面白いと思いました。
「チーム全員が使っていますよね。顧客もQAチームで同じ問題をもっていると思いますか?」「ええ、もちろん」
社内の顧客の問題を解決したこの製品は、社外の顧客の問題も解決しました。
これを製品化し、昨年6月のユーザーカンファレンスでローンチしました。
1人の社員のイノベーションタイムから生まれ、チームの問題を解決したこの製品は、12ヶ月で1,400もの顧客を獲得しました。
検証されたアイデアをマーケットに持ち込んだ一つの例でした。
マーケットでも同じ問題があると分かっていたので成功を確信できました。
これが20%タイムのもう一つの例でした。
20%ウィークについてはどうでしょうか?
これはGitリポジトリ管理ツールのStashの例です。
Jonathan Pohの20%プロジェクトです。
Gitのソースコード差分をご存知でしょうか。
デザイナーのJonathanは画像の差分を見られるようにしました。
これが今年初めのStashチームの20%ウィークでできたものです。
1週間経ってどうでしたでしょうか。
1週間で作りたかったもの10個のうち、次のリリースで5つを実装し、残りの5つは出荷しませんでした。
その後、その5つのうちのいくつかは出荷されました。
これはイノベーションタイムを価値のあるものにする素晴らしい例でした。
それを頭にいれて、皆さんにやってほしいことはShipIt Dayをチームで行うことです。
ShipIt Dayはイノベーションプログラムをローンチする素晴らしい方法です。24時間で、どう進むかはご覧頂きましたよね。とても簡単です。
ShipIt Dayを成功させたら、いくつを顧客に届けたか、どれだけ顧客にインパクトを与えたかを測定し、それをイノベーションプログラムへと拡大しましょう。
今日は顧客フィードバックとShipIt Daysを見てきました。
どの企業のどのチームも採用できる2つのことでした。
顧客を幸せにし、ビジネスを成長させます。
最後に皆さんにお伝えしたいことは「改善」です。
継続的なプロジェクト改善にこの日本語を用いています。いつもこのプラクティスを用いています。
どう進化させるか、やり方を改良できるか。
皆さんもそうすべきです。顧客フィードバックとShipIt Daysから開始して、次のレベルへ進化させてください。
皆さん、楽天さん、Rakuten Technology Conference 2012、本日はどうもありがとうございました。
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前編「アジャイル編」をまだご覧になっていない方はあわせてご覧ください。