アトラシアン20年の軌跡とこれからのこと

戦略、価値、永続的な企業づくりに関する20の教訓

本ブログは、こちらに掲載されている英文ブログの翻訳です。万が一内容に相違がある場合は、原文が優先されます。

WOW、20年!とても信じられません。この20年間は「荒っぽいドライブ」などという表現で足りるような体験ではありませんでした。

まずはこの場を借りて、お客様、パートナー、ベンダー、投資家の皆様、そしてもちろん、過去と現在のすべてのアトラシアン社員に感謝申し上げます。私たちは、このチームで共に成し遂げてきたことを、とても誇りに思っています。

今のアトラシアンと20年前のアトラシアンはかなり違って見えますが、(そして20年後のアトラシアンも違って見えるでしょう)変わらないものがあります。あらゆるチームの可能性を解き放つことは、私たちのすべての活動の原動力であり、私たちのコア・バリューと共に、行動の指針であり続けています。

私たちはアトラシアンがこの先どこへ向かうのか、とても楽しみにしています。しかし、次の段階に進む前に、私たちがお客様やチームメンバーから学んだこと、そしてその過程で経験した忘れられない体験を共有したいと思います。

2002

自分の製品を作ることは、他人の製品を直すことに勝る。

豆知識:アトラシアンは、他社のカスタマーサポートチームをサポートする企業としてスタートしました。そのため、四六時中電話を受けることになり、あまり楽しいものではありませんでした。私たちが使っていたバグトラッキングソフトウェアも、それほど優れたものではありませんでした。そこで私たちは自分でトラッカーを作り、JIRAと名付けました。そしてすぐに、サポートサービスを売るよりもJiraを売ったほうがいいと判断しました。

JIRA v.1.0のログイン画面 – 「創業者デザイン」としては、悪くないでしょう?

*当時主流だったバグトラッカーはBugzillaでした。Jiraは、1954年に公開された特撮怪獣映画「ゴジラ」の邦題をもじったもの。

2003

ソフトウェアは買われるものであって、売り込むものではない。

我々のターゲットとなる市場の多くは太平洋を隔てたアメリカにあり、従来型の営業組織の構築に多額の投資をするか、セルフサービスによる購入体験の構築に投資するか、2つの選択肢がありました。私たちは後者を選びました。2003年のある朝、私たちはファクス機に、アメリカン航空からの注文書が届いているのを発見しました。私たちは顔を見合わせて、こう言いました。「君が彼らと話をしたの?」「いや、お前がしたのか?」・・・「まさか! アメリカン航空は、僕らのホームページでJiraを見て、そのまま買ってくれたんだ!」。

私たちは、従来とは異なるやり方で販売し、これがうまくいったのです。

2004

間違いを早く認めれば、早く軌道修正をすることができる。

勢いに乗っていた私たちは、そろそろ米国に拠点を持つべきと考えました。そこで、ニューヨークに小さなオフィスを構えました。しかし、すぐに自分たちが背伸びをしすぎていたことに気がつきました。そのオフィスを早くに畳んだことは精神的には辛かったですが、のちに幾つも経験しなければならなくなるような、厳しい決断を下すための良い練習となりました。

2005

イノベーションには集中した時間と空間が必要。コーヒーブレークでは実現できない。

私たちが四半期に一回実施しているハッカソン「ShipIt」の伝統は、2005年に始まりました。当時も今も、通常の業務を中断し、人々が疑問を抱き、創造し、テストし、失敗し、再び挑戦するための余白時間を確保しています。24時間、好きな人と好きなことに取り組める自由は、大きなエネルギーになります。私たちは、ShipItのイベントからたくさんの製品機能や社内プログラムを生み出しました。実は、現在最も急成長している当社製品の1つJira Service Managementも、このイベントから生まれました。

勝者決定! 自画自賛はモチベーションが上がりますね。

2006

お返しは早く始めるほど容易である。

私たちはすべての成功はグループの総力によるものだと考えており、恩返しをすることを大切にしています。アトラシアン財団を設立したとき、私たちは利益、製品、株式、社員の時間の1パーセントを社会貢献団体に寄付することを約束しました。当時、アトラシアンはまだ非常に小さく、この誓いを果たすのはさほど難しいことではありませんでした(ほぼ何もないうちの1%は取るに足りない数字ですよね?)。そしてその誓約を早期に私たちのオペレーションモデルに組み込んでいたため、これまで一度も犠牲を払ったという感覚はなく、ビジネスを行う上で当たり前のこととなっています。

2007

企業価値は、何者になりたいかではなく、何者であるのかを反映すべき。

企業価値は、目標であってはなりません。既存の組織の最良の部分を反映したものであるべきです。アトラシアンの価値観を成文化しようとしたとき、私たちは少数の社員を集め、「アトラシアンのどんな側面を存続させたいのか」と自問しました。カルチャーは変化しますが、価値観は変わりません。

アトラシアンの企業価値

2008

ユーザーコミュニティに投資せよ。

最初のアトラシアンユーザーグループは、Jira の管理者が、この地域の他のアトラシアンユーザーと集まろうと思い立ったことから、2006年にバージニア州のレストンで始まりました。私たちはそのような強力なサポーターがいることがわかった時、とても興奮しました。そこで私たちは、ピザやビール、Tシャツで彼らの支援を始め、基本的には彼らの邪魔にならないようにしました。今日に至るまで、毎年 24,000 人のユーザーがアトラシアン コミュニティのイベントに参加し、アトラシアンのコミュニティ専属チームによってサポートされています。

2009

顧客とつながる時間を持つこと。

あなたのビジネスが、アトラシアンのようにハイ・ボリュームで、ロータッチであるなら、意識的に顧客との繋がりを持つ機会を作らなければなりません。私たちは、2009年にサンフランシスコにあるホテルの宴会場で、初のAtlassian Summit(現在はAtlassian Teamとしてリブランド)を開催しました。約340名のお客様を前に、円形シアター形式でプレゼンテーションを行い、多くの質問やご意見をいただきました。すべてが新しくぎこちない経験で、今私たちが主催するイベントと比べると未熟でしたが、お客さまへの共感や関係構築の方法としては、私たちにとって転機となるものでした。ボーナス・レッスン:円形劇場は、俳優や芸人に任せましょう。

2010

資金を得ることは、「売り渡す 」ことに値しない。

この時点で、アトラシアンはベンチャーキャピタルから複数の投資に関する問い合わせを受けており、私たちは次の段階への成長に向けて興奮していました。残された課題は、最適な投資家を見つけるだけでしたが、私たちはアクセル・パートナーズでそれを見つけることができました。アクセル・パートナーズは、私たちの価値観や企業経営に関する考え方を共有し、私たちのモデルや文化を変えるようなことは求めないということでした。私たちは、多くの点で型破りな会社でした(今もそうです)が、それでもうまく行っています。

アクセルとの契約を記念して、アトラシアンらしく記念Tシャツを作りました。

2011

絆創膏を剥がすことで顧客の痛みを軽減する。

時には、短期的に見るとお客様に苦痛を与えることになっても、長い目でビジネスを見た時に、厳しい決断を下さなければならないこともあります。私たちはこれを、2011年にConfluenceにおいてwikiマークアップ言語のサポートを中止し、プレーンテキスト編集を採用した時、そして2020年に、クラウド・ファースト企業になるための変革の一貫として、サーバー製品の提供中止を発表した際に経験しました。重要なのは、その影響を迅速かつ最小限に抑え、お客様を未来に導くためのサービスであることを確認することです。

2012

急成長には成長痛がつきもの。

多くの高成長企業がそうであるように、アトラシアンも一時期、通常よりも高い離職率を経験したことがあります。あるケースでは、自分が入社したいと思った会社よりも、会社が大きくなったために退職する人もいました。また、自分の役割が大きくなりすぎて、会社にとっても社員にとっても、どちらにもフィットしなくなってしまったというケースもあります。スタッフにとっても、私たちにとっても、少し戸惑うことがありました。大切なのは、思いやりと透明性を持って接することで、関わるすべての人が存在価値を感じられるようにすることです。

2013

他のチームへの出向は、信頼、共感、団結力の向上に役立つ。

アトラシアンには、社内の留学生プログラムのような、他のチームやオフィスに一時的に人を派遣(もちろん本人が望んでいることが前提)する長い歴史があます。しかし、2013年にスコットが家族をサンフランシスコに3ヶ月間移住させ、現地のオフィスで働くことを経験するまで、私たちはどちらも出向をしたことがなかったのです。人間関係や信頼関係を構築する上で、大きな収穫でした。複数のオフィスを持つ企業のリーダーには、ぜひおすすめします。

2014

企業文化へ投資が真の利益をもたらす。

アトラシアンは、働きがいのある会社(Great Places to Work)ランキングに定期的に登場しています。2014年に、従業員100人以上のオーストラリア企業の上位にランクインしたのが最初でした。私たちの戦略はシンプルです:優秀な人材を採用し、人生最高の仕事をするためのリソースと自由を与え、他では働きたくなくなるような待遇を与えることです。その結果、私たちは素晴らしいチームと、優秀な候補者を惹きつける評判を手に入れることができたのです。

シドニーオフィスと一緒にお祝い(そして勿論、記念Tシャツも作りました)。

2015

説得力のあるミッションは、ブランドとして、また雇用主としての差別化につながる。

「Atlassian 2015」とGoogle で検索してみると、その年の12月のIPOに関する様々な情報が出てくるかと思います。しかし、私たちにとっては、会社のミッションを明確にすることが、間違いなくもっと重要なことでした。「アトラシアンは、あらゆるチームの可能性を解き放つために存在する(Atlassian exists to unleash the potential in every team.)」この9つのシンプルな単語が、私たちがお客様、従業員、投資家、その他の利害関係社にとってどうありたいかを定義しています。それは、皆が参加したいと思うようなミッションです。社内での集中力が高まり、社外からの賛同も得やすくなります。

2016

都合が悪い時でも透明であれ。

テック業界における多様性の欠如は、2016年までに顕著なトピックとなっていました。私たちはこの年、初めて「ダイバーシティレポート」を発表しました。それは、私たちが同業他社よりも多様性に富んでいたからではなく(寧ろそうではありませんでした)、「オープンな企業、デタラメはなし」という企業の価値観からでした。データを公開することで、私たちは自分たちに責任を課したのです。また、他の企業が多様性データを共有するための道を開きたいとも考えていました。アトラシアンはこの点ではまだ望むところではありませんが、改善に努め、毎年のサステナビリティレポートの一部としてその進捗を共有しています。

2017

取引をするときは、ミッションとカルチャーを優先させること。

アトラシアンはこれまでに多くの企業を買収してきましたが、Trelloが最大の買収でした。それは案件規模が大きかったというだけではく、より重要なこととして、統合されるチームの規模が大きかったのです。 当時Trelloは97名の従業員を抱えていて、アトラシアンには2000名以上の従業員がいました。この統合がうまく言った理由は、お互いの企業のミッション、価値観、文化がとても近しかったからです。

2018

早めに大きな賭けに出るか、まったくやらないかだ。

アトラシアンがHipChatという名の小さなスタートアップを買収した時、グループチャットはまだ職場の主流になり始めの頃でした。私たちは、すぐにはグループチャットに大きく投資しませんでした。しかし、やるべきでした。私たちがHipchatをエンタープライス企業向けに改良することに忙しくし、最終的にはStrideという新しいグループチャット製品を作るためにピボットしている間に、Slackが世界を席巻してしまいました。Strideをビジネスとして成立させるだけの市場シェアを獲得するには、あまりにも遅すぎました。この件で悪かった点としては、2018年にStrideを終わらせる決断をしなければならなかったことです。しかし良かったことは、その決断を早くする勇気があったこと。これは、私たちがリーダーとして行ってきたことの中で、最も難しいことのひとつでした。この先心に残る教訓です。

2019

持続可能なビジネスの運営は、ミッションクリティカルである。

死にゆく星では、ビジネスも繁栄できません。気候変動はすべての企業にリスクをもたらすため、エコ・フットプリントを削減し、持続可能な環境政策を提唱することは、すべての企業の長期的な利益となります。2019年、アトラシアンはグローバル気候マーチ(Global Climate Strike)や国連気候行動サミットに参加し、2040年までにCO2排出実質ゼロのビジネスになることを公約しました。私たちは、民間と公共部門の両方でサステナビリティを推進し続け、サステナビリティレポートで毎年ネットゼロの進捗を共有しています。

2020

パックが向かうところに滑って行け。

アトラシアンがグローバルのすべてのオフィスを閉鎖した2020年3月、リモートワークの普及がパンデミックによる不朽の遺産となる前兆が既にありました。私たちはロックダウンがどれくらいの間続くのか分かりませんでしたが、「平常」が戻った後も、多くの顧客が分散型チームとして働き続けているだろうと感じていました。私たちは、自分たちのために、そしてお客様のために、大胆に新しい道を切り開く必要がありました。そこで私たちは、今後、従業員がオフィス(再びオープンしても大丈夫な状態になった時)、自宅、またはそのハイブリッドで働くことを選択できるようにすると宣言しました。

創業者として、運営方法をそのように劇的変えるのは怖いことです。しかし、私たちはこれが正しいことだと確信していました。その結果、今私たちはオフィスを構えている13の都市だけでなく、何千もの都市から人材を採用することができると同時に、従業員の求める柔軟性を提供することができます。

分散化の進むアトラシアンの従業員分布:2019-2020

2021

従業員に気を配ることが第一の仕事。

社員はアトラシアンにとって最も貴重なリソースです。最高の技術やビジネス戦略があっても、チームが肉体的、精神的に健康でなければ意味がありません。2021 年は前年と同様にストレスの多い年でした。オーストラリアの山火事、米国連邦議会議事堂での反乱未遂、世界中で続く社会不安、Covid 関連の継続的な不安などです。多くの社員が本格的な燃え尽き症候群に陥り、誰もがピリピリしていたのです。そこで私たちは、燃え尽き症候群に対抗し、精神的な危機のリスクを軽減するための従業員向けプログラムを拡充しました。ゲストスピーカーを招いたり、瞑想アプリや同様のリソースを利用したり、リーダーに対して、チームメンバーが充電するための休暇を追加できる権限を与えるなど、さまざまな工夫を凝らしました。

未来を見据えて

1万ドルのクレジットカードとたくさんのコーディング時間に支えられていた経験と勘を頼みのアイディアから、8千人以上の社員と20万人以上の顧客を持つグローバル企業として成長するまで、私たちにとってアトラシアンは、これまで本当に素晴らしい旅でした。

製品の価格設定、販売方法、顧客のサポート、次の製品開発など、時には暗闇の中で自分たちのやり方を模索しているように感じられることもありました。創業以来、微調整と改善、そして学習を続けてきたこの方式は、私たちの想像をはるかに超えた成果を上げています。

この先にのびる道と、あらゆるチームの可能性を解き放つミッションに、乾杯!