SAFe 5.0で何が変わったのか — 規模を拡大するエンタープライズ企業が正しい方向へ進む大きな一歩

エンタープライズアジャイル

本ブログは、こちらに掲載されている英文ブログの翻訳です。万が一内容に相違がある場合は、原文が優先されます。


By RJ GAZAREK
Senior Product Marketing Manager, Agile at Scale

2019年10月2日、Scaled Agile社 は、エンタープライズ企業向けとなるScaled Agile Framework (SAFe)の新しいバージョンを発表しました。新バージョンであるSAFe 5.0で追加された変更は、アジリティを組織全体に拡大しようとする企業にとって、然るべき方向への道しるべとなります。Scaled Agile社は、今回、SAFeモデルの見せ方を簡素化しながら、顧客中心主義を強化し、技術チーム以外にもアジャイルを拡大し、ポートフォリオ管理レベルでアジリティを実装する重要性を強調しています。SAFe 5.0での変更点や新たに加わった点については、この先でご紹介します。

このブログでは、今回SAFeフレームワークへ組み込まれた変更の中から、主要なものをカバーします。変更の多くは、既に概念としてSAFeに存在していたものあり、今回のバージョンでは、それらがよりわかりやすくなるよう、仕組みやガイダンスが追加されました。以下、主な変更点について、アトラシアンの解説をこの体裁で入れながら、説明します。アトラシアンは、SAFe 5.0が2020年の初めには一般公開されると考えています (※)。 詳細がわかり次第、引き続き、このページを更新していく予定です。

※本記事は、2019年10月に英語で執筆されたものを元に作成されており、SAFe 5.0は2020年1月に公開されました。

新たに加わったポイント

今回の最大の変更点は、モデルの見せ方とコンポーネントの配置です。

新しいレベル: Essential SAFe

Scaled Agile社 は、チームとプログラムのレベルを組み合わせて新しい「Essential」レベルとし、SAFeのトレーニングにおける信念である、「全員をトレーニングし、トレインをローンチする (Train Everyone, Launch Trains.)」を実践しようとしています。少なくとも1つのアジャイル リリース トレイン (ART: Agile Release Train) を編成しなければ、SAFeを実装することはできません。これまでも、プログラムレベルにはARTが含まれていましたが、ARTに取り組むメンバーはチームレベルに含まれていました。チームメンバーなしではARTを編成できず、ARTを編成しなければSAFeは実現しません。このフレームワークを実践して現実的に展開するため、これまでのレベルをEssential SAFeという新しいレベルに統合することに決めました。

この変更は、非常に理にかなっています。SAFeのトレーニングにおいても、SAFeの「エッセンシャル」な要素を強調しています。この新しいレベルは全体的統一に向けての調整となり、SAFeを定義するとともに、メンバーにとってのよい出発点となります。アジャイルのプラクティスを真にスケールアップする唯一の方法には、ポートフォリオレベルでのアジリティも求められるため、アトラシアンは足がかりとして始める出発点として、ポートフォリオ管理のEssentialバージョンを推奨します。

新しいコアコンピテンシー

SAFe 5.0では、アジャイルの理念に根ざした2つの新しいコアコンピテンシーを導入しています。1つ目は組織的なアジリティで、開発チームを超えたより広範な組織へのアジャイルの拡張です。継続的な学習の文化によってこのコンピテンシーの重点分野である「絶え間ない改善」の柱を実現し、さらに学習する組織をサポートし、イノベーションの文化を尊重します。

開発者の領域を超えたアジャイルチームに重点を置きながら組織的なアジリティを導入することは、正しい方法ではあるものの、企業にとっては最も難しいことの1つであるとアトラシアンでは考えています。このような実装では、戦略的な計画とビジョンを定めながらもデータ (市場の変化、新しい顧客の課題、アーリーアダプターの数など) に基づいて積極的に変更する姿勢を持ち続ける必要があり、不快に感じる人も多くいる中、リーダーシップによる本質的な変革が必要となります。企業の取締役会や株主は1年、3年、5年の直線的な事業計画を要求し、企業はそれに答えなくてはならないことを考えると、組織的アジリティがどのように実践されるかは興味深い点です。リーダーシップレベルのすべてのメンバーは、これが「計画がなくてよい」ということではなく、「計画を立て、データに基づき迅速に変更する」という意味であることを理解する必要があります。

新しいフレームワーク: “Roof”

Scaled Agile社 は、企業がSAFeを導入しても、ポートフォリオレベルで導入しない限り、ビジネスにおける真のアジリティは達成できないと考えます。EssentialとSolutionの2つのレベルには、ポートフォリオレベルがないため、ビジネスアジリティは含まれません。Scaled Agile社 は、企業がビジネスアジリティを達成するには、これらのレベルでは不十分であると述べています。

ポートフォリオのアジリティには、複数年にわたる計画や年次計画に対する強い固執を捨てることへのトップダウンの賛同が必要です。チームレベルでのアジャイルと同様、「計画しない」という意味ではありません。計画をすばやく変更できるように計画するという意味です。市場と顧客は、これまでにない速さで進んでいます (そして、新しいテクノロジーが登場し、より多くの情報が消費されるにつれ、加速し続けます)。顧客とともに方向転換できない会社は、それができる会社に後れを取るというリスクにさらされます。顧客が右に曲がっているにもかかわらず、真っ直ぐにビジネス戦略を進め続けては、顧客の期待に応えることができなくなります。

新たにSAFeに追加された 測定&成長 (Measure & Grow) は、企業がアジャイル変革のどの段階にあるかを把握し、ビジネスのアジリティ評価を実行するのに役立ちます。現在の位置を測定することで、成長が必要な分野に集中し、変革をサポートするための基盤となるSAFe作業に優先順位を付けることができます。

SAFeを採用したアトラシアンのお客様も、チームが大規模なアジャイルプラクティスを採用しようとしているのに、リーダーシップが未だに柔軟性に欠けるウォーターフォール型の考え方で組織を運営しているときに苦労すると言います。彼らは、チームやプログラムレベルで方向転換することへの抵抗に直面しながら、自分の約束を果たせないと感じています。残念ながら、何かをアジャイルと呼ぶだけでは、それがアジャイルになるわけではありません。最終的な目標は、市場や競合の変化に効率的に対応できる会社になることです。これにより、会社は顧客にとって最良の選択肢となり、その状態を維持することができます。市場がより急速に動き、ニーズがより急速に進化するにつれて、ビジネスも同じように迅速に対応できなければなりません。さもなければ競合他社に後れを取るリスクがあります。

フォーカスを強化: 顧客中心主義

Scaled Agile社は、SAFeの新しいEssentialレベルにおいて顧客中心主義とデザイン思考を追加しました。SAFeでは、組織図や確立された製品チームといった構造ではなく、顧客が受け取る価値を中心にARTを構成することに重点を置いてきました。この原則は、Essentialレベルの基礎です。すべての始まりは顧客です。

新しい原則: 価値を中心とした構成

Scaled Agile社 は、これまであった9つの基本原則に、新しく「価値の周辺で編成する」を追加し、10に増やしました。以前のバージョンのSAFeでも、バリューストリームマッピングの実施や、価値を中心としたチームの編成に取り組んできましたが、価値がSAFeの基本原則となったのは初めてです。バリューストリームマッピングを行う際の目標は、顧客が製品から価値をどのように得るか (トリガーから売り上げになるまで) を理解し、そのバリューストリームを中心にチームとARTを構築することです。

今回加わった原則が公式になったことは良いことですが、このエリアがお客様にとって最も難しく、手助けが必要となる、SAFeのコンポーネントになると思われます。SAFeに含まれるものすべては、バリューマッピングの実践を正しく行うことに基づいて構築されていますが、チームをバリューストリームに合わせるのではなく、既存のチームに合わせてバリューストリームが調整されることがよくあります。大企業では人材を伴う組織再編がよくあるため、SAFeの新しい原則に沿った変化を受け入れるのが難しい場合があることは理解できます。さらに、これらの変更をいつ、どのように実行するか、または古いものから新しいものにどのように段階的に移行すべきかは、必ずしも明確ではありません。こうした障壁があるため、お客様はバリューストリームを中心にチームを編成することを躊躇する場合があります。その結果、組織のアジリティを向上させる能力が減速したり、阻害されたりする可能性があります。バリューストリームに価値と重要性があるのは明らかです!

変更点

コアコンピーテンシー: リーンポートフォリオ管理

企業がビジネスアジリティを実現するための取り組みとして、いかにリーンポートフォリオ管理 (LPM: Lean Portfolio Management) を採用しているかを強調するため、LPMのコアコンピテンシーに多くの労力が費やされました。以前のバージョンでのポートフォリオキャンバスを超える「ポートフォリオビジョン」が、注力分野として新たに追加されました。また、戦略的なテーマを文書化する方法として、OKR (Objective and Key Results、目標と主な成果) も導入されました。

コンポーネントの再編成

SAFeフレームワーク全体を確認すると、繰り返しや混乱を避けることを目的として、さまざまなコンポーネントが簡素化され、調整されていることがわかります。コアコンポーネントとメンバーはフレームワークの左側に移動し、それぞれの役割が強調されています。SAFe では、まずメンバーに焦点を当てないことには何も達成できないため、これらの役割が切り離され、SAFe フレームワークの左側に移動されました。

コアコンピテンシーの更新: DevOps およびビジネスソリューションとリーンシステム

これら2つのコアコンピテンシーは名前が変更され、改定されました。アジャイルプロダクトのデリバリー (以前の DevOps) は、ほぼ変わりなく、より大きく「アジャイルプロダクトマネージャー」に重点が置かれています。エンタープライズソリューションのデリバリー (以前のビジネスソリューションとリーンシステム) は、大幅に書き換えられ、大規模なソリューション市場への提供を中心としたコンテンツが充実し、システムおよびソリューションエンジニアリング、ARTとサプライヤーの調整、ソリューションライフサイクルの管理が含まれ、実用可能なシステムに焦点を当てています。

名前の変更

いくつかのエリアの名前が、SAFe 5.0でのフォーカスの意図に沿うよう、変更されました。たとえば、SAFe実装ロードマップ (SAFe Implementation Roadmap) の最終ステップは、「加速 (Accelerate、以前は「持続と改善」)」になりました。ポートフォリオレベルには、「ポートフォリオビジョン (以前は「ポートフォリオキャンバス」)」と呼ばれるフォーカスエリアができました。

Scaled Agile社によるSAFe 5.0の発表は、組織全体にアジャイルプラクティスを拡大しようとする企業に正しい方向性を示すものとなっています。簡素化されたように見えたとしても、いずれも実践するのは簡単ではありません。アトラシアンは、お客様の大規模なアジャイル変革の加速をサポートできることを楽しみにしています。

アトラシアンでは、SAFeをサポートする製品としてJira Alignを提供しています。詳しくは以下の製品ページをご覧いただくか、お問い合わせフォームよりエンタープライズ営業にお問い合わせください。